転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜
188 怒られちゃった
「それじゃあ隣の部屋へ行きましょう。そこに教科書とか魔法陣を書くための器具とかが用意してあるから」
ロルフさんはしょんぼりしたままだったけど、バーリマンさんはそれを無視して僕をお勉強する部屋に連れてこうとしたんだ。
でもさ、その前にやらないといけない事があるんだよね。
「ちょっと待って。僕、お土産を持ってきてるんだ」
お母さんから、こっちに着いたらロルフさんとバーリマンさんにお土産を渡してねって言われてるんだ。
「ほう。土産と言うと、ウサギの肉かな? 今回も内臓の肉があると嬉のじゃが」
それを聞いてさっきまでしょんぼりしてたロルフさんが嬉しそうに僕に声をかけてきたんだよね。
でもそっか、ロルフさんはウサギのお肉が好きなんだね。
「ううん、ウサギのお肉じゃないよ」
う〜ん、それを知ってたらウサギのお肉を持ってきたのに。
でもね、今回持ってきたのは違う魔物のお肉なんだ。
「違うのかい? と言う事はもしかしてボア系の肉かな? あれも大層美味なのじゃが、イーノックカウでは滅多に手に入らぬからのぉ。そうだと嬉しいのじゃが」
「ロルフさん、ボアはブラックでもかなり高値で取引されているのですよ? そんな物をお土産で貰おうなんて、少しずうずうしすぎますわよ」
僕がウサギのお肉じゃないって言ったらロルフさんはじゃあ猪のお肉? って聞いて来たんだけど、そしたら僕が答える前にバーリマンさんがあれはとっても高いから、そんなわけ無いよって言うんだ。
う〜ん、確かにブラックボアは一角ウサギやジャイアントラビットより強くて狩りにくいけど、そんなに珍しい魔物じゃないから、母屋下に持ってきてもおかしく無いと思うんだけどなぁ。
「そっか、ロルフさんが食べたいって言うのなら、猪のお肉を持って来ればよかったかなぁ? でも、今日持ってきたのは違う魔物のお肉なんだよ。ごめんね」
「いやいや、ギルマスが言う通り、ボア系の魔物の肉は結構な値段で取引されておるからのぉ。わしも少々無理を言うたわい」
「そうですよ。それでルディーン君、今日は何のお肉を持ってきてくれたのかな?」
「えっとね。今日持ってきたのはクラウンコッコのお肉だよ。この間いっぱい狩ったから、おすそ分けってのをしなさいってお母さんが持たせてくれたんだ」
そう、僕がお土産に持ってきたのはこの間いっぱい狩ったクラウンコッコのお肉なんだ。
このお肉って、いつもならあんまり狩れないから村の外に出す事は殆ど無いんだよね。
だから、お金持ちのロルフさんたちだってあんまり食べたこと無いだろうから、お母さんが持っていってあげなさいって。
「……はて? ストールよ。今、ルディーン君は何と言うたかのぉ?」
「すっ、すみません。どうやらわたくしの耳もどうかしたようでして。どうやら幻聴が聞こえたようでございます」
でもね、僕がクラウンコッコのお肉を持ってきたって言ったのをロルフさんもストールさんもよく聞いてなかったみたいなんだ。
だから僕は、バーリマンさんには聞こえてたよね? ってそっちを見たんだけど。
「えっと……冗談よね?」
そしたらバーリマンさんがこんな事を言い出したんだ。
「なんで? 僕、嘘なんか言って無いよ。ほら、ちゃんとクラウンコッコのお肉、持ってきたもん!」
バーリマンさんは、何でか僕が言った事を信じてないみたいだったから、僕は肩掛けカバンから大きな葉っぱで包んであったクラウンコッコのモモのお肉を出して、みんなに見せてあげたんだ。
「たっ、確かにこれは鶏の肉のように見せますが……普通の鶏ではありえないほどの大きさですわね」
「うむ。と言う事は、本当にクラウンコッコの肉と言う事じゃな」
そしたらバーリマンさんもロルフさんも、それを見て僕が言った事が嘘じゃないって解ってくれたんだよね。
だから僕は、ホッと一安心。
「待ってください、旦那様! クラウンコッコってあのクラウンコッコですよね?」
「うむ。多分ストールが言う所の、あのクラウンコッコじゃ」
ところが今度はストールさんが大騒ぎし始めちゃったんだよね。
だから僕はちょっとびっくりしたんだけど、この後にストールさんはもっとびっくりする事を言い出したんだ。
「旦那様、クラウンコッコと言えばBランクどころか、Aランクの冒険者からですら肉調達の指名依頼を断られる事があると言う魔物ですよ。そんな魔物の肉をお土産だなんて……ギルドマスター様も、何故そのように落ち着いておられるのですか!?」
そっか、クラウンコッコってそんなにびっくりするくらい強いって思われてるんだ。
あっでも、そう言えばうちの村でもクラウンコッコを狩る時は村の人が総出で狩りをするもんね。
そう考えたら、とっても強いAランクの冒険者さんたちだって、1組のパーティーじゃ狩れないよって言われてもおかしく無いか。
「いや、わしも驚いてはおる。じゃが、現に目の前にあるからのぉ」
「ええ。ですがグランリルの村では祭りの時に、村総出でクラウンコッコを狩ると言う話を聞いたことがありますもの。今回はちょうどその祭りの時期に当たったのでしょう」
「なるほど。それならば納得です。しかしあのグランリルの人たちが総出で、ですか。やっぱりクラウンコッコと言うのはとても狩るのが大変なんですわね」
バーリマンさんの話しにストールさんはそれなら解るって言ってるんだけど、でも違うんだよね。
だから僕は教えてあげる事にしたんだ。
「違うよ。あのねぇ、この間クラウンコッコが森の入り口近くにいっぱい巣を作ったんだ。でね、そのままだと危ないってレーアお姉ちゃんが言ったから、僕が魔法でバババァ〜っていっぱい狩ったんだよ」
「巣を作ったって……もしかして卵を守っているクラウンコッコに手を出したと言うのか? それはまた危険なまねをしおってからに」
ところがそれを聞いたロルフさんが怒っちゃったんだよね。
何でかって言うと卵を守ってるクラウンコッコは普通よりもっと凶暴になってるし、なにより必死に攻撃してくるようになるから、けして手を出さないようにって冒険者ギルドでは言われてるんだってさ。
「確かにAランク上位とかSランククラスの冒険者パーティーならば狩れない事は無いであろうが、それでも戦えば間違いなく重傷者を出してしまうことになるからのぉ。普通ならそんな物に手を出す物はおらん。じゃと言うのに、この子と来たら」
クラウンコッコは森の中でしか生活しないから、どんなに実力がある人だって周りの木を使って飛び回りながら突進して来られると避け切れない場面が出てきちゃうんだって。
そんなのが二匹、絶対逃げ出さないで最後まで暴れまわるんだもん。手を出そうなんて誰も考えないよってロルフさんは言うんだ。
「でもさ、レーア姉ちゃんは遠くから攻撃してもしダメだったら逃げればいいって。卵守ってるから多分追っかけてこないよって言ってたもん」
「なるほど。お姉さんがそう言ったのじゃな」
それを聞いたロルフさんは考え込んじゃって、
「確かに遠くから魔法で攻撃したのであれば、もし通用しなかった場合でも逃げる事は出来たかも知れぬ。じゃがな、最初の1匹を倒せたとして、もし自分たちに向かってきたもう一匹への魔法が外れたらどうするつもりなのじゃ? 確かに魔法は狙った場所を外す事は少ないじゃろうが、途中にある木を楯にされたら交わされる事もあるじゃろうに」
ちょっとしてから、僕にこう言ったんだ。
そっか。そう言えばロルフさんは僕が1度に2発のマジックミサイルが撃てる事を知らないもんね。
だったら、そう思っちゃっても仕方ないか。
「あのね。僕、2発いっぺんにマジックミサイルが撃てるんだ。でね、巣を作ってるクラウンコッコは2匹で行動してるから、通用するなら大丈夫だって思ったんだもん」
だから教えてあげたんだ。
それを聞いたロルフさんはびっくりしたんだけど、それでもやっちゃダメって言うんだよね。
「それはまた……。じゃがな、もしその魔法が通用せず、その上二匹の内の一匹がしつこく追って来た場合もあり得るから、やはり手を出すべきではなかったと思うのじゃよ」
「でもでも、お姉ちゃんがクラウンコッコは体が大きいから、森の中なら逃げ切れるって言ってたもん!」
「うむ。確かに普通鳴らそうかも知れぬ。じゃが、パーティーの誰から木の根や草に足を取られて転んでしまったらどうじゃ? ありえぬ話ではないじゃろうて」
ロルフさんにこう言われて、僕は何も言えなくなっちゃたんだ。
だって僕、よく転んじゃうもん。
それにお姉ちゃんたちだって、急いでたら絶対に転ばないなんて言えないもんね。
「解ってもらえたかな? じゃからこれからはそのような危険なことをやってはならぬ。じゃが、もしどうしてもやらねばならぬと言うのであれば……ああ、いや」
「? やらないといけない時はどうするの?」
「うっ、うむ。そのような時は一度村へ帰り、親御さんに相談しなさい。君の村の人たちは皆、腕のいい狩人なのじゃろう? ならばその人たちと共に立ち向かえば、危険も少なかろうて」
「そっか、やっぱり僕たちだけじゃなくってお父さんたちと一緒に狩るほうがよかったんだね。うん、解ったよ。これからはちゃんとお父さんたちと一緒にやっつけるね」
お姉ちゃんたちは、一度村に帰ったら僕は狩りに参加させて貰えないから村の人たちが危ない目に合うって言ってたけど、やっぱりちゃんとお話をしてからやった方がよかったんだね。
大人であるロルフさんの話を聞いた僕は、これからはちゃんとお父さんに手伝ってもらうようにしようって思ったんだ。
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いかん、いかん。危うく、要らぬ知恵をルディーン君に付けてしまうところじゃったわ。
わしは今回のような場面で一番安全であろう方法を思いついたのじゃが、それは消してルディーン君に伝えてはいけないと思い留まったのじゃ。
その方法と言うのは、ただ1人で魔物の元に赴き、魔法を撃って通用しないようであればジャンプの魔法で逃げると言うものじゃった。
ルディーン君は獲物から遠く離れた場所から魔法で狩りを行うと言うから、こうすれば誰かを巻き込むことなく安全に確かめる事はできるじゃろう。
じゃが、人と言うもの慣れる生き物じゃ。
もしこの方法を試すうちに緊張感を失い、大きなミスを起してしまった場合はどうじゃ? 周りには誰もいないのじゃから、ルディーン君はたやすく命を落としてしまうじゃろう。
そんな方法を幼い彼に話すべきではない。
ギルマスやストールと笑顔で話すルディーン君を眺めながら、わしは思いついたこの方法を心の中にしまうのじゃった。